キャリアアップ助成金とは?申請方法や支給金額、コースの種類を解説

pic_post246_main

厚生労働省の「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の雇用条件改善のために設けられた助成金制度です。アルバイトやパート、派遣社員、契約社員などを正社員雇用したり、処遇改善を行ったりした事業主に対して支給されます。
非正規雇用労働者の雇用条件改善は、労働者のモチベーションアップやエンゲージメントの向上にもつながります。非正規雇用労働者を雇用している事業主は、キャリアアップ助成金を活用して処遇見直しを検討してみてはいかがでしょう。
この記事では、キャリアアップ助成金の内容や事業主による助成金申請までの流れのほか、注意点や支給されないケースなどについて解説します。

目次

キャリアアップ助成金は非正規雇用労働者の処遇改善制度

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者を正社員として雇用した場合や、非正規雇用労働者の処遇を改善した場合に事業主に支給される助成金です。「正社員化支援」「処遇改善支援」の2種類に大別されます。
キャリアアップ助成金は、2022年4月から、正社員の定義変更や助成金の一部廃止などの変更が行われており、申請を検討の際は、最新の内容を確認しておいてください。

支給対象となる事業主

キャリアアップ助成金の支給対象となる事業主の条件は、下記のとおりです。助成金申請を検討している事業主の方は、必ず確認してください。

<キャリアアップ助成金の支給対象事業主>

  1. 雇用保険適用事業所の事業主
  2. 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
  3. 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ計画を作成し、労働局長の認定済
  4. キャリアアップ助成金対象の労働者について、労働条件や勤務状況、賃金支払い状況などがわかる書類を作成
  5. キャリアアップ計画期間中に、非正規雇用労働者のキャリアアップに関する取り組みを実施

非正規雇用労働者を正社員雇用にした際に受け取れるキャリアアップ助成金

事業主が、非正規雇用している労働者を正社員雇用すると、キャリアアップ助成金が支給されます。正社員化支援には「正社員化コース」と「障害者正社員化コース」の2つのコースがあり、コースによって支給金額に違いが生じる点に注意が必要です。
ここでは、非正規雇用労働者を正社員雇用する2つのコースの仕組みや助成金額について解説します。

1. 正社員化コースの場合

正社員化コースは、事業主が非正規雇用労働者を正社員に転換、または直接雇用すると受け取れる助成金です。
自社のアルバイトやパートなどを正社員にした場合、また人材派遣会社から自社に派遣されていた派遣社員を直接正社員雇用した場合にも適用されます。ただし、正社員化コースは、1年度1事業所あたり20人までしか申請できません。
ここでいう正社員とは、同じ事業所内の正社員と同一の就業規則が適用される従業員で、なおかつ、賞与または退職金制度と昇給制度がある従業員を指しています。
この際、正社員への転換または直接雇用の前後の6ヵ月分賃金を比較し、3%以上増額している必要があります。通勤手当や住宅手当、時間外労働手当など賃金3%以上増額の計算に含められない手当もあるため、注意してください。

正社員化コースで受け取れる助成金額は下記のとおりです。ただし、生産性向上要件を満たす場合(助成金申請事業所の生産性の伸びを算定するための「生産性要件算定シート」における生産性が、3年度前比で1~6%以上伸びている)は、支給額が割増されます。

■キャリアアップ助成金 正社員化コースで受け取れる助成金額

企業区分条件支給金額
中小企業有期雇用非正規労働者を正社員にした場合57万円
有期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合72万円
無期雇用非正規労働者を正社員にした場合28万5,000円
無期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合36万円
大企業有期雇用非正規労働者を正社員にした場合42万7,500円
有期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合54万円
無期雇用非正規労働者を正社員にした場合21万3,750円
無期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合27万円

また、正社員化コースは下記の条件に該当すると、加算される制度が設けられています。加算措置制度は、中小企業も大企業でも同様の助成額です。

■キャリアアップ助成金 正社員化コースの加算措置制度

条件加算金額
派遣社員を派遣先で正社員として直接雇用対象者が一人親家庭の母または父人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員へ転換
有期雇用非正規労働者を正社員にした場合28万5,000円9万5,000円9万5,000円
有期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合36万円12万円12万円
無期雇用非正規労働者を正社員にした場合28万5,000円4万7,500円4万7,500円
無期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合36万円6万円6万円

さらに、勤務地・職務限定社員、短時間正社員制度を新規創設した上で、該当区分で非正規雇用労働者を正社員にした場合、1事業所あたり1回に限り、9万5,000円(生産性向上要件を満たす場合は12万円)の助成金を受け取れます。大企業の場合は7万1,250円(生産性向上要件を満たす場合は9万円)です。

2. 障害者正社員化コースの場合

事業主が障害者の非正規雇用労働者を正社員などに転換した場合においても、キャリアアップ助成金を受け取ることができます。障害者正社員化コースの対象となるのは、下記の条件を満たす労働者です。

<障害者正社員化コースの対象労働者>

  1. 該当事業主に非正規雇用労働者として6ヵ月以上雇用されている
  2. 転換実施日の時点で身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者、難病患者、脳の機能的損傷にもとづく精神障害である高次脳機能障害であると診断された者のいずれかに該当する
  3. 就労継続支援A型事業(障害者・難病患者が、雇用契約を結び一定の支援を得ながら職場で働く福祉サービス)利用者ではない

ほかにも、「事業主・取締役の3親等以内の親族ではない」といった条件もあるため、実際に申請を行う際には、必ず細かい要件を確認してください。
障害者正社員化コースの支給額は下記のとおりです。支給対象期間は1年で、最初の6ヵ月(第1期)と後半の6ヵ月(第2期)に分けて支給されます。

■キャリアアップ助成金 障害者正社員化コースで受け取れる障害・転換内容別支給金額

企業区分支給対象者条件支給金額
中小企業・重度身体障害者
・重度知的障害者
・精神障害者
有期雇用から正規雇用へ120万円
有期雇用から無期雇用へ60万円
無期雇用から正規雇用へ60万円
・重度以外の身体障害者
・重度以外の知的障害者
・発達障害者
・難病患者
・高次脳機能障害と診断された者
有期雇用から正規雇用へ90万円
有期雇用から無期雇用へ45万円
無期雇用から正規雇用へ45万円
大企業・重度身体障害者
・重度知的障害者
・精神障害者
有期雇用から正規雇用へ90万円
有期雇用から無期雇用へ45万円
無期雇用から正規雇用へ45万円
・重度以外の身体障害者
・重度以外の知的障害者
・発達障害者
・難病患者
・高次脳機能障害と診断された者
有期雇用から正規雇用へ67万5,000円
有期雇用から無期雇用へ33万円
無期雇用から正規雇用へ33万円

非正規雇用労働者の処遇改善をした際に受け取れるキャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金では、非正規雇用労働者の労働条件を見直すことも助成金支給対象です。処遇改善支援に関する5つのコースについて解説します。

1. 賃金規定等改定コース

事業主は、非正規雇用労働者の賃金規定を見直して、2%以上昇給した場合に助成金を受け取れます。上限は、1年度1事業所あたり100人で、申請は1年度に1回のみです。追加申請はできません。

■キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コースで受け取れる助成金

企業区分条件支給金額(1人あたり)
中小企業対象の非正規雇用労働者が1~5人3万2,000円
対象の非正規雇用労働者が1~5人で、生産性向上要件を満たす場合4万円
対象の非正規雇用労働者が6人以上2万8,500円
対象の非正規雇用労働者が6人以上で、生産性向上要件を満たす場合3万6,000円
大企業対象の非正規雇用労働者が1~5人2万1,000円
対象の非正規雇用労働者が1~5人で、生産性向上要件を満たす場合2万6,250円
対象の非正規雇用労働者が6人以上1万9,000円
対象の非正規雇用労働者が6人以上で、生産性向上要件を満たす場合2万4,000円

さらに、下記にあてはまる中小企業は、加算措置制度の対象です。

■キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コースの加算措置制度

条件加算金額(1人あたり)
3%以上5%未満の賃金増額につながる賃金規定の改定を行った場合1万4,250円
3%以上5%未満の賃金増額につながる賃金規定の改定を行い、生産性向上要件を満たす場合1万8,000円
5%以上の賃金増額につながる賃金規定の改定を行った場合2万3,750円
5%以上の賃金増額につながる賃金規定の改定を行い、生産性向上要件を満たす場合3万円

また、「単純比較表」「分類法」「要素比較法」「要素別点数法」のいずれかの手法で職務評価を行い、それにもとづいた賃金規定の増額改定を行った場合は、下記の加算を受けられます。

■キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コースの職務評価・増額改定を行った場合の加算措置制度

企業区分条件加算金額(1事業所あたり)
中小企業職務評価の手法の活用により賃金規定などを増額改定した場合19万円
職務評価の手法の活用により賃金規定などを増額改定し、生産性向上要件を満たす場合24万円
大企業職務評価の手法の活用により賃金規程などを増額改定した場合14万2,500円
職務評価の手法の活用により賃金規定などを増額改定し、生産性向上要件を満たす場合18万円

2. 賃金規定等共通化コース

非正規雇用労働者と正社員に共通する職務などを鑑みた上で、賃金規定を新たに作成・適用した事業主には、下記の助成金が支給されます。

■キャリアアップ助成金 賃金規定等共通化コースで受け取れる助成金

企業区分条件支給金額(1事業所あたり)
中小企業有期雇用労働者などに関して正社員との共通の職務に応じた賃金規定を新たに作成・適用した場合57万円
有期雇用労働者などに関して正社員との共通の職務に応じた賃金規定を新たに作成・適用し、生産性向上要件を満たす場合72万円
大企業有期雇用労働者などに関して正社員との共通の職務に応じた賃金規定を新たに作成・適用した場合42万7,500円
有期雇用労働者などに関して正社員との共通の職務に応じた賃金規定を新たに作成・適用し、生産性向上要件を満たす場合54万円

3. 賞与・退職金制度導入コース

事業主が非正規雇用労働者向けの賞与や退職金制度を新設し、支給やそのための積立を行った場合、下記の助成金の支給対象となります。

■キャリアアップ助成金 賞与・退職金制度導入コースで受け取れる助成金

企業区分条件支給金額(1事業所あたり)
中小企業有期雇用労働者などに関して賞与・退職金制度を新設、支給または積立を実施した場合38万円
有期雇用労働者などに関して賞与・退職金制度を新設、支給または積立を実施し、生産性向上要件を満たす場合48万円
大企業有期雇用労働者などに関して賞与・退職金制度を新設、支給または積立を実施した場合28万5,000円
有期雇用労働者などに関して賞与・退職金制度を新設、支給または積立を実施し、生産性向上要件を満たす場合36万円

なお、賞与と退職金、両方の制度を同時に導入すると、下記の加算が受けられます。

■キャリアアップ助成金 賞与・退職金制度導入コースの加算措置制度

企業区分条件加算金額(1事業所あたり)
中小企業賞与と退職金両方の制度を同時に導入した場合16万円
賞与と退職金両方の制度を同時に導入し、生産性向上要件を満たす場合19万2,000円
大企業賞与と退職金両方の制度を同時に導入した場合12万円
賞与と退職金両方の制度を同時に導入し、生産性向上要件を満たす場合14万4,000円

4. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース

2022年9月30日までの時限措置ではありますが、「労使合意にもとづく社会保険適用拡大」を行って、これまで対象外だった非正規雇用労働者を社会保険の被保険者とした場合、下記の助成金が支給されます。

■キャリアアップ助成金 選択的適用拡大導入時処遇改善コースで受け取れる助成金

企業区分条件支給金額(1事業所あたり)
中小企業有期雇用労働者などの働き方の意向を適切に把握、社会保険の適用・働き方の見直しに反映させる取り組みを実施し、新たに社会保険の被保険者とした場合19万円
有期雇用労働者などの働き方の意向を適切に把握、社会保険の適用・働き方の見直しに反映させる取り組みを実施し、新たに社会保険の被保険者とし、生産性向上要件を満たす場合24万円
大企業有期雇用労働者などの働き方の意向を適切に把握、社会保険の適用・働き方の見直しに反映させる取り組みを実施し、新たに社会保険の被保険者とした場合14万2,500円
有期雇用労働者などの働き方の意向を適切に把握、社会保険の適用・働き方の見直しに反映させる取り組みを実施し、新たに社会保険の被保険者とし、生産性向上要件を満たす場合18万円

中小企業が社会保険加入日以降、該当の非正規雇用労働者の基本給を増額した場合は、増額率に応じて1人あたり1万9,000~13万2,000円(生産性向上要件を満たす場合は2万4,000~16万6,000円)の加算対象があります。大企業は1人あたり1万4,000~9万9,000円(生産性向上要件を満たす場合は1万8,000~12万5,000円)です。ただし、支給申請は45人分が上限となるので注意しましょう。

社会保険加入日以降、非正規雇用労働者の生産性を上げるための研修制度や評価制度などを導入した場合は、1事業所あたり10万円(大企業は7万5,000円)の加算が受けられます。

5. 短時間労働者労働時間延長コース

短時間勤務の非正規雇用労働者について、手取り収入が減らないよう週の所定労働時間延長と処遇改善の上で社会保険への加入を行うと、下記助成金が支給されます。申請は1事業所あたり、1年度につき45人までです。このコースは2024年9月30日まで暫定措置が適用されており、以降は支給額が減額となったり、支給申請上限人数が減少したりすることがあるので注意してください。

■キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長コースで受け取れる助成金

企業区分条件支給金額(1人あたり)
中小企業1週間あたりの所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に加入させた場合22万5,000円
1週間あたりの所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合28万4,000円
1週間あたりの所定労働時間を1時間以上2時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させた場合5万5,000円
1週間あたりの所定労働時間を1時間以上2時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合7万円
1週間あたりの所定労働時間を2時間以上3時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させた場合11万円
1週間あたりの所定労働時間を2時間以上3時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合14万円
大企業1週間あたりの所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に加入させた場合16万9,000円
1週間あたりの所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合21万3,000円
1週間あたりの所定労働時間を1時間以上2時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させた場合4万1,000円
1週間あたりの所定労働時間を1時間以上2時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合5万2,000円
1週間あたりの所定労働時間を2時間以上3時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させた場合8万3,000円
1週間あたりの所定労働時間を2時間以上3時間未満に延長し、基本給の昇給を行った上で社会保険に加入させ、生産性向上要件を満たす場合10万5,000円

キャリアアップ助成金申請の流れ

キャリアアップ助成金の申請は、計画性にもとづいて行う必要があります。助成金申請手順は下記のとおりです。正社員化支援と処遇改善支援は、申請の流れにおいて基本的に変わりはありません。

■支援別・キャリアアップ助成金の申請ステップ

Step項目正社員化支援の流れ処遇改善支援の流れ
Step1計画の策定事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置して、労働組合に意見聴取をした上で「キャリアアップ計画」を作成事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置して、労働組合に意見聴取をした上で「キャリアアップ計画」を作成
Step2労働局長の認可キャリアアップ計画について、事業所を管轄する労働局に届出・認定。正社員に転換する前日までの提出が必須キャリアアップ計画について、事業所を管轄する労働局に届出・認定。正社員に転換する前日までの提出が必須
Step3就業規則等の改定就業規則等に正社員転換についての手続き方法や要件、時期に関する規定を設け、労働基準監督署に届出助成金対象となるコースの要件にもとづいて賃金の改定や社会保険加入などを実施
Step4転換の実施Step3にもとづき、転換を実施Step3にもとづき、転換を実施
Step56ヵ月間の賃金支払い転換後、6ヵ月間継続雇用し、その間の賃金を支払う
※賃金額は3%以上上がっている必要あり
転換後、6ヵ月間継続雇用し、その間の賃金を支払う
※「賞与・退職金制度導入コース」の場合は、初回の賞与支払いまたは6ヵ月以上の退職金積立
Step6助成金の支給申請Step5の賃金支払いが完了した翌日から2ヵ月以内に支給申請Step5の賃金支払いが完了した翌日から2ヵ月以内に支給申請
Step7助成金の受け取り審査に通過後、助成金が支給審査に通過後、助成金が支給

キャリアアップ助成金申請時の注意点

非正規雇用労働者を正社員として雇用したり、賃金を上げたりしたとしても、要件を満たさないと助成金を受け取れない可能性があります。
ここでは、キャリアアップ助成金を申請する際に、注意しなくてはならない点をいくつかご紹介しましょう。

正社員化・処遇改善措置前の手続きが必要

キャリアアップ助成金では、正社員への転換や賃金アップなどの措置前に「キャリアアップ計画」を策定し、届け出なければなりません。措置後提出は受け付けられないため、必ず事前に労働組合等と協議の上で、計画を策定してください。

就業規則などへの明記が必要

特定の非正規雇用労働者の処遇を変えるだけでは、キャリアアップ助成金の要件を満たすことができません。どのようなときに、どのような労働者が該当の制度の対象になるのか、就業規則などにルールとして明記する必要があります。

支給申請期間中の手続きが必要

キャリアアップ助成金の申請ができるのは、該当の措置を行った後、6ヵ月分の賃金が支払われた日の翌日から2ヵ月以内です(賞与は初回支払日の翌日から2ヵ月以内)。この期間内に手続きを行わないと、助成金は支給されません。

申請は給与支払い後に行われ、さかのぼって訂正できない

キャリアアップ助成金の申請をするのは、正社員への転換や賃金アップなどを行い、賃金を6ヵ月支払った後です。「賃金アップの割合を間違えた」などの理由から支給要件を満たさないことが後でわかっても、さかのぼって修正できません。
不正受給が相次いで発覚したことから、キャリアアップ助成金の審査は非常に厳しくなっています。助成金申請に詳しい社会保険労務士などに相談しながら、不備がないように慎重に申請手続きを進めるようにしてください。

助成金支給までに時間がかかる

事業主はキャリアアップ助成金の要件を満たすために、キャリアアップ管理者を選出・配置し、キャリアアップ計画を作成します。その後、該当労働者を正社員へ転換や処遇改善して、6ヵ月分の賃金支払いなども行わなければなりません。ここまでの手続きだけでも、かなりの時間がかかるはず。さらに、申請後の審査にも数ヵ月程度要することもあります。
状況によって異なりますが、該当の措置を行ってから助成金を受け取るまでには、およそ1年程度を要すると考えておいたほうがいいでしょう。

キャリアアップ助成金が支給されないケース

さまざまな理由によって、キャリアアップ助成金が支給されないこともあります。せっかくの申請が無駄にならないよう、キャリアアップ助成金が不支給になってしまう理由について解説します。

労働基準法などの法令違反がある

支給申請日の前日から過去1年以内に労働関連の法律に違反したことがある事業主は、キャリアアップ助成金の対象になりません。残業代の算出方法や労働時間、有給休暇付与・取得など、最新の労働基準法を遵守した経営が行えているかどうか、確認しておく必要があります。
また、そもそも労働者の処遇が改善されていないなど、キャリアアップ助成金の意図にそぐわない経営を行う事業主は支給対象外です。労働環境や社内規定をあらためて見直してみてください。

実地調査の協力を拒否した

キャリアアップ助成金の申請後、審査のために事業所の実地調査が行われることがあります。実地調査は予告なく行われることもあり、拒否すると助成金の支給を受けられません。
調査時に提出を求められた総勘定元帳や賃金台帳などの法定帳簿において、不正に改ざんされた書類や原本とは異なる書類を提出し、それが明らかになった場合も不支給の対象です。

書類の疑義に対し適切な対応をとらない

キャリアアップ助成金の申請にあたって、申請書や添付書類などに不明点があった場合、都道府県労働局長から書類の補正や追加書類の提出を求められる場合があります。期日までに必要な対応をとらないと不支給の対象です。

不正受給から5年以内の申請

不正受給をしたことがある事業主は、以後5年間はキャリアアップ助成金の受給ができません。不正受給とは、虚偽の申告によって、本来なら受け取れないはずの助成金を受け取ること。虚偽の程度にかかわらず、真実とは異なる申告によって助成金を受け取った場合、不正受給扱いとなります。

受給後の会計検査院検査への協力不同意

キャリアアップ助成金の支給後、会計検査院が会計検査を行うケースがあります。この会計検査への協力を同意していないと、助成金を受け取ることはできません。あらかじめ会計検査への協力には同意しておくようにしてください。
なお、検査対象となる可能性を踏まえ、支給申請書や添付書類の写しなどは、支給決定から5年間保存しておきましょう。

キャリアアップ助成金を不正受給した場合の罰則

キャリアアップ助成金を不正受給した場合は、助成金を全額返還しなければなりません。また、助成金支給日の翌日から返還日までの期間に対して、年3%の延滞金と返還額の20%の違約金を支払う必要があります。なお、申請に際して代理人を利用しており、なおかつ代理人が不正を黙認・関与していた場合、申請代理人も連帯債務を負うことになります。
不正受給をしてしまうと、その後5年間は助成金を受け取ることができません。将来的にも大きなデメリットとなるため、虚偽の申請はしないようにしましょう。

キャリアアップ助成金の審査通過に向けて、日々の労働基準法遵守と総務人事系システム活用を

キャリアップ助成金を受け取るためには、厳しい審査を通過する必要があります。日頃から労働基準法に則った経営を行い、就業規則や賃金規定に問題がないか、社会保険労務士などに確認してもらいましょう。
また、助成金の申請自体も、人事労務担当者が該当分野に知見のある社会保険労務士を通して行うのが確実です。キャリアアップ計画の作成段階から、専門家に相談しつつ手続きを進めることをおすすめします。

ただし、人事労務部門は「仕事は増えても人は増えない」部門のひとつ。今後予想される「一人総務時代」を見越し、業務の効率化を図るなら、バックオフィス業務をアシストしてくれる総務人事系システムをおすすめします。
「総務⼈事奉⾏クラウド」なら、労働者名簿や退職証明書などの文書、社内用の書類、リスト作成などは、フォーマットやパターンを選ぶだけで、都度手作業することなく、業務を自動化することができます。「総務⼈事奉⾏クラウド」の活用を、ぜひご検討ください。

【2024年版】キャリアアップ助成金の6つのコースまとめ

キャリアアップ

優秀な人材を確保し、労働生産性を向上させることは国の課題にもなっており、労働生産性の改善と向上がこれまで以上に求められています。「優秀な人材を確保したいけど、人件費に余裕がない」と悩まれている事業主の方の強い味方に「キャリアアップ助成金」があります。

キャリアアップ助成金は、国の助成を受けて派遣社員などの非正規雇用労働者を、正社員化、処遇改善を行い労働者の意欲を高める制度になります。
ここでは、キャリアアップ助成金の6つのコースについてご紹介します。

キャリアアップ助成金とは?

日本の非正規雇用労働者は2010年より増加しており、近年では約40%の労働者が非正規雇用労働者と言われています。厚生労働省では、非正規雇用労働者の減少を目的としてキャリアアップ助成金に力を入れています。

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者を正社員にするための制度を会社内で整備し、実際に非正規雇用労働者が正社員になった場合に支給される助成金です。

キャリアアップ助成金は、労働者の新規雇い入れ、アルバイトの正社員化、派遣社員の直接雇用など、会社の状況に合わせて6つのコースがあり、自由度が高く、利用しやすい助成金になっています。

キャリアアップ助成金の7つのコース

キャリアアップ助成金は、「正社員化コース」が2コースと正社員化コース以外の「処遇改善関係コース」が4コース用意されており、合計で6つのコースがあります。

①正社員化コース

アルバイトやパートなどの有期契約労働者等を正規雇用労働者に転換した場合や直接雇用した場合に助成されるコースです。他のコースと比べて最も利用しやすく「キャリアアップ助成金=正社員化コース」と言われるほどです。有期契約労働者等を雇用する事業主の方が最初に検討する助成金です。

②障害者正社員化コース

障害者の雇用促進と職場定着を図るための助成金です。

③賃金規定等改定コース

有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を増額して昇給させた場合に助成されるコースです。

④賃金規定等共通化コース

有期契約労働者等の賃金規定などを作成し、運用した場合に助成されるコースです。賃金規定等は、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた規定でなければなりません。

⑤賞与・退職金制度導入コース

有期契約労働者を対象に、賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合に助成されるコースです。

⑥社会保険適用時改善コース

短時間労働者に以下のいずれかの取組を行った場合に助成されるコースです。

  • 新たに社会保険の被保険者となった際に、手当支給・賃上げ・労働時間延長を行った場合
  • 労働時間を延長して新たに社会保険の被保険者とした場合

人材開発支援助成金との違い

キャリアアップ助成金と間違えやすい助成金に「人材開発支援助成金」があります。どちらも雇用関係の助成金ですが、助成金の目的が異なります。

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の会社内でのキャリアアップを促進する助成金であり、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を目的としています。
一方、人材開発支援助成金は従業員の職業能力開発の促進のために支給される助成金です。従業員が職務に関連した専門知識や技術を身に付けて労働生産性の向上や技術の承継、グローバル人材の育成などを目的としています。

キャリアアップ助成金の6コースの概要

キャリアアップ助成金の7つのコースにはそれぞれ助成の要件と助成金額が設定されています。各コースの助成の要件と助成金額を見ていきましょう。

各コース共通の要件

各コースに共通して支給対象になる事業主が定められています。主な要件は次の通りです。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとに対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であり、キャリアアップ計画書を取組実施日の前日までに提出していること

①正社員化コースの概要

雇用される期間が6か月以上の有期雇用労働者、無期雇用労働者、または、有期派遣労働者、無期派遣労働者を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合に助成されます。助成額は有期・無期によって異なります。

転換または直接雇用有期雇用→正規雇用無期雇用→正規雇用
中小企業80万円(40万円×2期)40万円(20万円×2期)
大企業60万円(30万円×2期)30万円(15万円×2期)

正社員に転換したあと、6ヶ月継続して雇用すると1期目として申請できます。
その後、さらに6ヶ月継続して雇用すると2期目として申請できます。

加算額

いろいろなケースの加算措置があります。

措置内容有期雇用→正規雇用無期雇用→正規雇用
派遣労働者を正社員として直接雇用28万5,000円
対象者が母子家庭の母または父子家庭の父の場合95,000円47,500円
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合95,000円47,500円
正社員転換制度を新たに規定し転換した場合
(1事業所当たり1回のみ)
20万円(大企業 15 万円)
多様な正社員制度を新たに規定し転換した場合
(1事業所当たり1回のみ)
40万円 (大企業 30 万円)

正社員化コースはこちらの記事で詳しくご紹介しています。また、キャリアアップ助成金を申請する場合に注意しなければならないポイントについてもご確認ください。

【関連記事】キャリアアップ助成金(正社員化コース)を確実にもらうための方法

②障害者正社員化コース

障害者正社員化コースは、重度の障害者か重度以外の障害者かに区分され、有期雇用・派遣労働者から正規雇用労働者にした場合に120万円(60万円×2期)(大企業は90万円(45万円×2期))の助成を受けることができます。詳しくは、こちらをご覧ください。

【参照】厚生労働省:キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)

③賃金規定等改定コース

有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、昇給させた場合に助成されます。

賃金引き上げ率3%以上5%未満5%以上
中小企業5万円65,000円
大企業33,000円43,000円

加算額

職務評価(※)の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合の加算措置があります。

企業規模加算額
中小企業20万円
大企業15万円

※職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握することをいいます。

賃金規定等改定コースの支給の流れ

  1. キャリアアップ計画の作成・提出
    事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、労働組合等の意見を聞いてキャリアアップ計画書を作成し、賃金規定等を増額改定する前日までに管轄労働局へ提出し認定を受けます。
  2. 賃金規定等の増額改定の実施
  3. 増額改定後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給・支給申請
  4. 審査、支給決定

必要書類

支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、増額改定前および増額改定後の賃金規定等、対象労働者の増額改定前および増額改定後の雇用契約書等の書類

④賃金規定等共通化コース

有期雇用労働者等に正規雇用労働者と共通の賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成を受けることができます。

助成金の支給額は、中小企業で1事業所当たり60万円となり、大企業の場合は1事業所当たり45万円になります。

賃金規定等共通化コースの支給の流れ

  1. キャリアアップ計画の作成・提出
  2. 賃金規定等の共通化の実施
  3. 賃金規定等共通化後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給・支給申請
  4. 審査、支給決定

必要書類

支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、共通化前後の就業規則または労働協約等、有期雇用労働者等と正規雇用労働者が共通の賃金規定等の適用を受けていることを証明する労働者名簿等

⑤賞与・退職金制度導入コース

すべての有期雇用労働者等に関して、賞与 ・ 退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に助成されます 。

制度賞与または退職金制度
いずれかを導入
賞与または退職金制度
を同時に導入
中小企業40万円56万8,000円
大企業30万円42万6,000円

諸手当制度等共通化コースの支給の流れ

  1. キャリアアップ計画の作成・提出
  2. 賞与または退職金制度の導入
  3. 賞与の支給または退職金の積立・支給申請
  4. 審査、支給決定

必要書類

支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、制度新設前後の就業規則または労働協約等、対象労働者全員の制度新設前後の雇用契約書または労働条件通知書等、対象労働者全員の初回の支給・積立て前後および賞与支給月分の賃金台帳等など

⑥社会保険適用時処遇改善コース

雇用する短時間労働者に、以下のいずれかの取り組みを講じた場合に助成されます。

(1)手当等支給メニュー

新たに社会保険の被保険者となった際に、賃金総額を増加させる取り組み(①②)を行い、また、最終的に、恒常的な所得の増額となる取り組み(③)を行った場合。

制度①1年目の取組
②2年目の取組
③3年目の取組
中小企業40万円(10 万円 × 4 期※)10万円
大企業30万円(7.5 万円 × 4 期※)7.5万円

※1期は6ヶ月
①、②:労働者負担分の社会保険料相当額 (標準報酬月額等の 15 %以上)の 手当支給又は 賃上げ
③:基本給の総支給額を 18 %以上増額 (賃上げ等、労働時間延長あるいはその両方による増額)

(2)労働時間延長メニュー

新たに社会保険の被保険者となった際に、週の所定労働時間を4時間以上延長する等を行った場合、または、週の所定労働時間を4時間以上延長する等を実施し、これにより当該労働者が社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者となった場合 。

企業規模金額
中小企業30万円
大企業22.5万円

※職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握することをいいます。

(3)併用メニュー

社会保険加入後、1年目に(1)手当等支給メニュー ①の取組 を行い、2年目に(2)労働時間延長メニューの取組を行った場合も、それぞれの額を支給します。

※中小企業 50 万円((1)① 20万円+(2)30万円 )、大企業37.5 万円((1 )①15 万円+(2)22.5万円)

選択的適用拡大導入時処遇改善コースの支給の流れ

  1. キャリアアップ計画の作成・提出
  2. 手当支給または労働時間延長を実施
  3. 延長後6か月分の賃金を支給・支給申請
  4. 審査、支給決定

必要書類

支給要件確認申立書、キャリアアップ計画書、対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書等、対象労働者の賃金台帳等など

業務改善助成金とは?中小企業が賃金を引き上げるための助成金プログラム

image

2024年(令和6年)8月29日に、最低賃金(時給)の改定額が全都道府県で確定しました。全国加重平均での引き上げ額は過去最高の51円で、今回の改定ですべての地域で最低賃金が950円越えとなりました。地方では人手不足や働き手の流出を防ぐ目的で、国が示した目安額を大幅に上回る県も多く見られました。

今回の記事では、最低賃金の引き上げに関連して、生産性の向上を支援することで賃金引き上げの推進を可能にする「業務改善助成金」をご紹介します。最低賃金引き上げといった難しい課題に対して、助成金を有効に活用し企業の成長のきっかけにしたいとお考えの方はぜひチェックしてみてください。

業務改善助成金とは?

業務改善助成金は中小企業・小規模事業者の業務の改善を国が支援し、従業員の賃金引上げを図るために設けられた制度です。

生産性向上のための設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行い、事業場※内の最低賃金を一定額以上引き上げた中小企業・小規模事業者に対しその設備投資などにかかった経費の一部を助成します。

※事業場とは?
事業場の適用範囲は、原則として、同じ場所にあれば一つの事業場とみなしますが、例外として、労働状態が違う場合は別々の事業場とみなします。例えば、工場で生産にあたる労働者と工場内の食堂で食事を作る労働者は業態が全く異なる為、別々の事業場とみなすことになります。

また、本社と営業所が離れた場所にあった場合でも、営業所に常駐しているのは1人だけ・業務は営業のみ・管理的な業務は一切行っていない場合などは、一つの事業場とする事が可能です。もし会社が大きくなってきて、同じ建物の中にあっても、○○事業部と○○事業部といったように、業態が違い、かつ労働安全衛生法がより適切に運用できる場合は、2つの事業場としてみなすことができます。

参考:東京労働局 よくあるご質問

業務改善助成金の対象者

事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の事業場の中小企業・小規模事業者が対象です。以下の要件をすべて満たした場合に、事業場ごとに申請します。なお、過去に業務改善助成金を受給したことがあっても対象になります。

【支給要件】
(1)賃金引上計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること
(2)引上げ後の賃金額を支払うこと
(3)生産性向上に資する機器・設備などを導入して業務改善を行い、その費用を支払うこと
(4)解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと

(3)について、
・単なる経費削減のための経費
・職場環境を改善するための経費
・通常の事業活動に伴う経費などは、除きます。

特例的拡充

上記要件を満たした上で、さらに次の内容に当てはまる場合は、助成上限額・助成率・助成対象経費について、特例的な拡充が受けられます。

条件助成上限額の拡充助成率の拡充助成対象経費の拡充
事業場の事業場規模が一定未満である場合有(30人未満)
事業場の最低賃金が950円未満である場合
事業主の事業状況(利益率)が特定基準を満たす場合
「生産性基準」を満たした場合

特例的な拡充として、事業の規模や経営状況等に応じて、特定の条件を満たす企業に対してより手厚いサポートを行います。助成上限額や助成率が拡充されることで、資金面での支援が強化され、助成対象経費の拡充では、より広範な経費が補助対象となります。

業務改善助成金はいくらもらえる?支給金額は?

業務改善助成金は賃金・時給の引き上げと設備投資を行うことで、最大600万円が支給されます。具体的には、30円、45円、60円、90円といった申請コースごとに定める引き上げ額以上、事業場内最低賃金を引き上げた場合に、生産性向上のための設備投資等にかかった費用の一部が助成されます。なお申請コースごとに、引き上げ額、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められています。まとめたものが下図になります。

出典:業務改善助成金

【特例事業者】
助成上限額の拡充は、特例事業者に該当し、引き上げる労働者が10人以上の場合に対象となります。また、助成対象経費の拡充については、物価高騰等要件に当てはまる特例事業者のみが対象となります。2024年(令和6年)度における特例事業者の要件は以下のとおりです。

(1)賃金要件
申請事業場の事業場内最低賃金が950円未満である事業者

(2)物価高騰等要件
原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者

生産性要件とは

※2023年(令和5年)3月31日で生産性要件が廃止される労働関係助成金がありますが、業務改善助成金においては引き続き生産性要件が設けられています。

生産性を向上させた企業が業務改善助成金を利用する場合、助成率が割増しになります。
(助成率4/5から9/10へ、または助成率3/4から4/5へ割増し)

生産性要件は以下のとおりです。
(1)助成金の申請時の直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること、またはその3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること。

「生産性要件」の算定の対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないことが必要です。また、「1%以上(6%未満)」伸びている場合は金融機関から一定の事業性評価を得ている必要があります。

(2)「生産性」は次の計算式によって計算します。
生産性=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課/雇用保険被保険者数

生産性要件算定シートは下記リンクからご確認ください。
※厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html

助成率

申請を行う事業場の引き上げ前の事業場内最低賃金によって、助成率が変わります。

【助成率の拡大について】
・申請事業場の事業場内最低賃金額が900円未満又は920円以上950円未満であれば、3/4より高い助成率が受けられます。
・生産性要件に該当した場合は、( )書きの助成率が適用されます。

■ 900円未満: 9/10
■ 900円以上 950円未満:4/5 (9/10)
■ 950円以上:3/4 (4/5)

業務改善助成金の支給額

活用例から、支給額を計算してみましょう。

【設備投資費用が300万円の場合の例】
ある事業所で、地域別の最低賃金が935円である中、事業場内の最低賃金を940円から1000円に引き上げた場合、事業場内最低賃金が940円なので助成率は4/5になります。

7人の労働者の最低賃金60円引き上げを行い、「60円コース・7人以上」の区分により、助成上限額は230万円です。

【支給額】
設備投資費用が300万円かかった場合の計算式は、300万円×4/5=240万円、となりますが、助成上限額が230万円のため、上限額を超える分は助成されません。この場合の支給額は230万円となります。

業務改善助成金2024年(令和6年)の変更点

2024年度の業務改善助成金に関する変更点は以下のとおりです。

変更項目詳細
特例事業者要件と経費の特例新型コロナウイルスの影響を受けた事業者向けの「生産量要件」が終了しますが、「賃金要件」と「物価高騰等要件」は続けられます。そして「生産量要件」または「物価高騰等要件」の事業者に許可されていた「関連する経費」の支援が終了します。(※車やPCなどの導入に関しては引き続き実施)
申請回数と賃金引上げ方法2024年度中の申請は1回のみ可能で、賃金引上げは1回のみが助成対象です。複数回の賃金引上げは助成から除外されます。
申請期限と事業完了期限申請期限は2024年12月27日、事業完了期限は2025年1月31日まで。

2024年度の業務改善助成金の変更に適応するため、事業主の皆さまは、ご自身の事業状況を見直し、計画的に申請準備を進めてください。特に「関連する経費」の終了や賃金引上げ条件の変更は注意深く検討しましょう。

【関連する経費とは】
広告宣伝費、汎用事務機器、事務室の拡大、机・椅子の増設など

業務改善助成金でパソコンも導入できる?

では実際に、どのようなものに対して助成金が過去に交付されているかをご紹介します。ポイントとしては、導入する設備や機器もしくはコンサルによってどのように業務改善が行われ最低労働賃金を上げることが可能なのかという点が申請時における計画のポイントとなります。

  • POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
  • リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
  • 顧客・在庫・帳簿管理システムの導入による業務の効率化
  • 専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上

上記以外にも、インクジェットプリンタや、受注管理システム、顧客管理システム、インターネット受注機能のホームページなどにも利用されています。

特例事業者のうち、物価高騰等要件に該当する場合は、通常、助成対象経費として認められていない以下の経費も対象となります。

  • 定員7人以上又は車両本体価格200万円以下の乗用自動車 
  • 貨物自動車 
  • パソコン、スマホ、タブレット等の端末及び周辺機器(新規導入)

飲食業の取り組み例

『デリバリー拡充のためのコンサルティングと必要なシステム・機材の導入により売上拡大』

出典:令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内より抜粋 

デリバリー販売を拡大し、揚げ物を短時間で調理し多くの注文を受けるため、助成金を活用してコンサルティングを受け「受注システム」「宅配用3輪バイク」「二層フライヤー」を導入。その結果、デリバリーの注文受付から配達までと、揚げ物調理の効率化により生産性が向上し、1人の従業員の時間給を100円引上げることができた。また、事業場内最低賃金を上回る従業員の賃金の引上げも実施した。

食洗機も助成金の対象になる?

手作業での食器洗浄は、作業効率が悪く時間がかかります。そこで、食洗機を導入して、作業時間を大幅に短縮し、作業効率の向上を図ったという例もあります。

食洗機の導入というと、まず飲食業を思い浮かべますが、、配達飲食サービス業やホテル業のほか、医療・福祉の現場でも食洗器の導入事例がありました。

参考:業務改善助成金業種別事例集(宿泊業・飲食サービス業編)
参考:業務改善助成金業種別事例集(医療・福祉編)

業務改善助成金の申請から入金までの流れ


【STEP1:助成金交付申請書を労働局に提出】
事業改善計画と賃金引上げ計画を記載した交付申請書(様式第1号)を都道府県労働局に提出。内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知が届きます。

【STEP2:設備・機器の導入などで生産性を向上】
生産向上、労働能率の増進が図られる設備投資などを行い、業務の効率化を目指します。

【STEP3:事業場内の最低賃金を引上げ】
事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げます。

【STEP4:事業実績報告書を提出】
業務改善計画の実施結果と助成金対象経費の支払い結果、賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書(様式第9号)を労働局へ提出。内容が適正と認められれば助成金額の確定通知が届きます。

【STEP5:入金】
確定通知を受けたら、支払請求書(様式第13号)を提出します。

業務改善助成金スケジュール・いつまで

2024年(令和6年)の申請締切は12月27日となっております。また郵送の場合は必着となりますのでご注意ください。助成金は予算の範囲内で交付するため申請期間内に募集を終了する場合があります。

・申請期限:2024年12月27日
・事業完了期限:2025年1月31日

業務改善助成金の注意事項

原則として、交付申請書や交付決定通知書(STEP1に該当するもの)の提出前や通知前に実施したものに関しては、対象外になります。

【基本的な流れ】
(1)交付申請書を都道府県労働局に提出する前に設備投資等や事業場内最低賃金の引上げを実施した場合は、対象外となります。
(2)事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出後から事業完了期日までの間、いつ実施してもよいことになっています。
(3)設備投資等は、交付決定通知後に行う必要があります。

まとめ

多くの中小企業にとって、継続して費用の負担が増加する最低賃金引き上げは難しい課題です。今回ご紹介した業務改善助成金は、最低賃金引き上げに向けた国の中小企業・小規模事業者支援事業のうちの1つですので、このような助成金を活用して、生産性向上のための設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行いながらの賃金引上げに取り組んでみてはいかがでしょうか。

▼2024年 最低賃金引き上げについてはこちらの記事もご覧ください。

このフォームに入力するには、ブラウザーで JavaScript を有効にしてください。
(ハイフンなし)
お問い合わせ項目
目次