1. マルチエネルギーステーション化の必要性

1.1 都民の暮らしを支えるエネルギー供給拠点としての役割

皆さんは、日々の生活の中でガソリンスタンドを利用する機会が多いのではないでしょうか。ガソリンスタンドは、私たちの暮らしを支える重要なエネルギー供給拠点として長年その役割を果たしてきました。しかし、近年の環境意識の高まりや技術革新により、ガソリンスタンドの在り方も大きな転換期を迎えています。

都内のガソリンスタンドは、単に燃料を供給するだけでなく、地域の安全や防災の拠点としても重要な役割を担っています。災害時の燃料供給や、地域コミュニティの中心として機能することも多いのです。このような多面的な役割を果たすガソリンスタンドが、今後も持続可能な形で経営を続けていくためには、新たな取り組みが必要不可欠となっています。

1.2 環境配慮型ステーションへの転換が求められる背景

環境問題への対応は、もはや企業の社会的責任の域を超え、ビジネスの成否を左右する重要な要素となっています。特に、エネルギー関連産業には、より一層の環境配慮が求められています。では、具体的にどのような変化が求められているのでしょうか？

• 水素ステーションの設置
• EV充電設備の導入
• 省エネ設備への更新

これらの取り組みは、単に環境に配慮するだけでなく、多様化するエネルギー需要に応えるという意味でも重要です。例えば、電気自動車の普及に伴い、充電スポットの需要が高まっています。また、水素自動車の登場により、水素供給施設の整備も急務となっています。

このような背景から、従来のガソリンスタンドを、複数のエネルギー源を扱う「マルチエネルギーステーション」へと転換していくことが、今後の持続的な経営にとって不可欠なのです。

2. 東京都の支援事業について

2.1 支援事業の目的と概要

東京都は、このようなガソリンスタンドの変革を後押しするため、「環境に配慮したマルチエネルギーステーション化に向けた経営力強化支援事業」を立ち上げました。この事業の目的は、都内ガソリンスタンドの持続的な経営をサポートし、マルチエネルギーステーションへの円滑な移行を促進することにあります。

支援内容は大きく分けて2つあります：

1. 専門家派遣支援
2. 助成金支援

専門家派遣支援では、経営課題の分析や具体的な改善策の提案を行います。一方、助成金支援では、実際の設備導入や事業多角化に必要な資金の一部を補助します。これらの支援を通じて、ガソリンスタンド事業者の皆さんが、より柔軟に、そして積極的に事業転換に取り組めるよう後押しします。

2.2 対象となる事業者

では、この支援事業の対象となるのは、どのような事業者でしょうか？

主に以下の2つのカテゴリーが対象となります：

1. 都内でガソリンスタンドを営む中小企業者等
2. 都内のガソリンスタンド内の空きスペース等を活用してビジネスを展開する都内中小企業者等

つまり、既存のガソリンスタンド経営者だけでなく、ガソリンスタンドの施設を活用して新たなビジネスを始めようとする事業者も対象となるのです。これは、ガソリンスタンドの多機能化や地域の活性化にもつながる、非常に興味深い取り組みと言えるでしょう。

特筆すべきは、この支援事業が令和6年度から開始された新規事業だという点です。つまり、先進的な取り組みに挑戦する事業者にとっては、絶好のチャンスと言えるでしょう。

3. 機能向上・事業多角化への取り組み支援

3.1 専門家派遣サービスの活用方法

まずは、専門家派遣サービスについて詳しく見ていきましょう。このサービスは、ガソリンスタンドの機能向上や事業多角化を検討している事業者の皆さんにとって、非常に心強い味方となります。

専門家派遣の流れは以下の通りです：

1. 申込書の提出：公式ウェブサイトから申込書をダウンロードし、必要事項を記入の上、電子メールまたは郵送で提出します。
2. 日程調整：公社で内容確認後、専門家の訪問日時を調整します。
3. 専門家訪問：最長2時間程度のヒアリングと現地確認を行います。

ポイントは、専門家派遣日には決算書類や助成金申請予定品目の見積書、検討資料などを可能な範囲で準備しておくことです。これにより、より具体的で実践的なアドバイスを受けることができます。

専門家派遣の申請期間は令和6年6月13日（木）から令和6年10月31日（木）までです。早めの申請をお勧めします。なお、1か所あたり最大2回まで無料で利用できるので、十分に活用しましょう。

3.2 助成金制度の詳細と申請方法

次に、助成金制度について詳しく説明します。この制度は、専門家派遣を受けた事業者を対象に、機能向上・事業多角化に向けた取り組みにかかる経費の一部を助成するものです。

助成金の概要は以下の通りです：

• 助成率：助成対象経費の3分の2以内
• 助成限度額：2,000万円（申請できる助成金の下限額は10万円）
• 助成対象期間：交付決定日から1年間

助成対象となる経費の例としては、以下のようなものが挙げられます：

• 省エネ型洗車機
• POSシステム
• 遠隔監視装置（監視カメラ）
• カーシェア、コインランドリー、カフェ等の開設のための設備導入

申請の流れは以下の通りです：

1. 専門家派遣支援を受ける
2. 助成金申請書類を提出（電子メール・郵送・Jグランツのいずれか）
3. 公社による書類確認と審査
4. 交付決定通知の受領
5. 事業開始（対象設備等の導入）
6. 実績報告書の提出
7. 助成金額の確定と振込

注意点として、助成金の申請は専門家派遣支援終了後から令和6年12月27日（金）までとなっています。また、申請後の経費追加はできないので、申請前によく検討することが大切です。

4. ガソリンスタンドの空きスペースを活用したビジネス展開

4.1 空きスペース活用の可能性

ガソリンスタンドの空きスペースを活用したビジネス展開も、この支援事業の対象となっています。これは、既存のガソリンスタンド事業者だけでなく、新たにビジネスを始めたい事業者にとっても魅力的な機会です。

空きスペース活用の例としては、以下のようなものが考えられます：

• EVカーシェアリングサービス
• フードトラックスペースの提供
• コインランドリーの設置
• 小規模なコワーキングスペースの運営

これらのビジネスは、地域のニーズに応じて選択することで、新たな収益源となるだけでなく、地域コミュニティの活性化にも貢献できる可能性があります。

4.2 脱炭素化に役立つビジネスの優遇措置

特に注目すべきは、脱炭素化に役立つビジネスに対する優遇措置です。東京都が策定した「ゼロエミッション東京戦略」に基づき、以下の分野に該当するビジネスが「脱炭素化に役立つビジネス」として認められます：

1. エネルギー
2. 都市インフラ（建築物・運輸）
3. 資源・産業
4. 気候変動適応

具体的には、EVカーシェア、フードシェアリング、資源回収などが該当します。これらのビジネスを展開する場合、以下のような優遇措置が適用されます：

• 助成率：助成対象経費の3分の2以内（通常は2分の1以内）
• 助成限度額：100万円（通常は75万円）

申請期間は令和6年6月13日（木）から令和6年12月27日（金）までです。ただし、事業を3年以上継続することが要件となっているので、長期的な視点での計画が必要です。

このように、東京都の支援事業は、ガソリンスタンドの機能向上や多角化だけでなく、新たなビジネスの創出も後押ししています。これは、環境に配慮しつつ地域経済を活性化させるという、一石二鳥の取り組みと言えるでしょう。

5. マルチエネルギーステーション化のメリットと展望

5.1 経営の安定化と新たな収益源の確保

マルチエネルギーステーション化は、単なる環境対策ではありません。むしろ、ガソリンスタンド経営者の皆さんにとって、ビジネスチャンスと捉えるべき戦略的な転換なのです。その理由をいくつか挙げてみましょう。

1. 需要の多様化への対応： 電気自動車（EV）や燃料電池車（FCV）の普及に伴い、エネルギー需要は多様化しています。マルチエネルギーステーション化により、これらの需要を取り込むことができます。例えば、EV充電設備を導入することで、充電中の顧客に対して他のサービスを提供する機会が生まれます。
2. 収益源の分散： ガソリン販売だけに依存せず、複数のエネルギー源や関連サービスを提供することで、収益源を分散できます。これは、燃料価格の変動や将来的な化石燃料需要の減少といったリスクへの対策にもなります。
3. 顧客層の拡大： 従来のガソリン車ユーザーに加え、EV所有者や環境意識の高い顧客層を取り込むことができます。これは、長期的な顧客基盤の拡大につながります。
4. 政府の支援策活用： 今回ご紹介した東京都の支援事業のように、環境配慮型のビジネスモデルへの転換を後押しする政策が増えています。これらを活用することで、初期投資の負担を軽減できます。

5.2 地域社会への貢献と環境保護の両立

マルチエネルギーステーション化のメリットは、経営面だけにとどまりません。地域社会や環境保護の観点からも、大きな意義があります。

1. 地域の防災拠点としての機能強化： 多様なエネルギー源を扱うことで、災害時のレジリエンス（回復力）が向上します。例えば、停電時にEVから電力を供給したり、FCVに水素を供給したりすることで、地域の非常用電源としての役割を果たすことができます。
2. 地域コミュニティの活性化： 空きスペースを活用した新たなビジネス（例：カフェ、コインランドリー）の導入により、ガソリンスタンドが地域の交流拠点となる可能性があります。これは、特に高齢化が進む地域では重要な役割を果たすでしょう。
3. 環境負荷の低減： 省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用により、ステーション自体の環境負荷を低減できます。さらに、EVやFCVの普及を後押しすることで、地域全体のCO2排出量削減にも貢献します。
4. SDGsへの貢献： マルチエネルギーステーション化は、SDGs（持続可能な開発目標）の複数の目標達成に寄与します。特に、「目標7：エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「目標11：住み続けられるまちづくりを」「目標13：気候変動に具体的な対策を」などに直接的に貢献します。

今後の展望としては、さらなる技術革新や政策支援により、マルチエネルギーステーションの役割がますます重要になっていくと予想されます。例えば、再生可能エネルギーの地産地消の拠点としての機能や、MaaSの一環としての役割など、新たな可能性が広がっています。

ガソリンスタンド経営者の皆さんには、この変化を脅威ではなく機会として捉え、積極的に取り組んでいただきたいと思います。東京都の支援事業を有効活用し、未来に向けた投資として、マルチエネルギーステーション化を検討してみてはいかがでしょうか。