まず初めにこの記事は「 2020年版 中小企業白書(HTML版)」の内容をもとにしています。公的情報なので信頼性は高いと仮定しています。
起業希望者の推移
日本の起業の動向に関する興味深いデータが、総務省の「就業構造基本調査」から明らかにされています。この調査結果は、起業に関心がある人々や現在起業している人々の推移を示しており、その中でいくつかの重要な傾向が見て取れます。
- 起業希望者の減少傾向: 起業を希望する人々の数は、過去数年間で減少しています。これは、起業に向けて意欲を持つ人々の数が徐々に減っていることを示しています。
- 起業準備者の減少傾向: 起業の準備を進めている人々もまた、同様の減少傾向にあります。これは、実際に起業に向けて具体的な行動を起こしている人々の数が減っていることを意味しています。
- 起業家の数の減少: 既に起業している人々の数も減少していますが、この減少傾向は起業希望者や起業準備者の減少割合に比べて緩やかです。
- 起業家の割合の上昇: 興味深いことに、2007年から2017年にかけての期間で、起業準備者に対する起業家の割合は上昇しています。これは、起業への準備を行っている人々の中で、実際に起業に至る割合が増えていることを示唆しています。
年 | 起業希望者(万人) | 起業準備者(万人) | 起業家(万人) | 起業準備者に対する起業家の割合 |
2007 | 101.4 | 52.1 | 18.1 | 34.7% |
2012 | 83.9 | 41.8 | 16.9 | 40.4% |
2017 | 72.5 | 36.7 | 16.0 | 43.6% |
副業起業の増加傾向とフリーランスの台頭
日本において、副業を通じた起業の動向にも興味深い変化が見られます。特に、「副業起業希望者」と「副業起業準備者」の数が増加しているという点は注目に値します。これは、従来の起業希望者や起業準備者の減少を補っていると言えるでしょう。
副業起業希望者と副業起業準備者の増加
- 副業起業希望者の増加: 本業とは別に、副業として新たなビジネスを立ち上げようとする人々が増えています。これは、多くの人々が副収入を得る手段として起業を考えていることを示しています。
- 副業起業準備者の増加: 副業での起業を具体的に準備している人々も増加しており、彼らは本業に加えて新たなビジネス機会を模索しています。
年 | 副業起業希望者 | 副業起業準備者 |
2007 | 72.1 | 31.9 |
2012 | 67.7 | 32.6 |
2017 | 78.1 | 40.2 |
フリーランス起業家の存在感
- フリーランス起業家の割合: 近年、特定の組織に属さない形態での起業、すなわちフリーランスとしての起業が注目されています。フリーランス起業家は起業家全体の約46.2%を占めており、その影響力は大きいとされています。
このデータは、日本における起業の形態が従来の枠組みから多様化していることを示しています。特に、副業としての起業やフリーランスとしての活動は、多くの人々にとって新たな働き方や収入源として魅力的な選択肢となっています。
フリーランス起業家の年齢構成と起業目的
フリーランス起業家の年齢構成に関するデータは、この分野での起業が特に若年層において注目されていることを示しています。フリーランス起業家の中で50歳未満の割合を見ると、男性は約50%、女性は約70%に達しています。これは、企業の社長の年齢分布と比較しても、フリーランス起業家が比較的若い年齢層に集中していることを示しています。
フリーランス起業家の年齢層
- 男性: 50歳未満の割合が約50%
- 女性: 50歳未満の割合が約70%
このデータから、フリーランスとして起業する人々の中には、より若い世代が多く含まれていることがわかります。これは、新しい働き方やキャリアの構築に積極的な若い世代が、フリーランスとしての起業を選択しているという傾向を示しています。
フリーランス起業家の起業目的
フリーランス起業家の起業目的に関するデータも興味深いです。半数以上のフリーランス起業家が、「自分の裁量で自由に仕事をするため」や「自分の好きな仕事をするため」と起業したと回答しています。このことから、自己決定と自由を重視する傾向が、フリーランス起業家には強いと言えます。
フリーランス起業家の事業形態と起業目的
フリーランスとして起業した後の事業の形態に関するデータは、フリーランス起業家たちの働き方の多様性を示しています。このデータによると、フリーランスの形態を継続する者が約6割を占めており、約2割の起業家はフリーランスから雇用を伴う事業形態に移行していることがわかります。
フリーランス起業家の起業目的
フリーランス起業家の起業目的を見ると、以下のような多様な理由が挙げられます:
- 自由に仕事をするため: 57.4%が自分の裁量で自由に仕事をするために起業。
- 好きな仕事をするため: 50.7%が自分の好きな仕事をするために起業。
- スキルを生かすため: 40.0%が仕事の経験やスキルを生かすために起業。
- 生計を立てるため: 32.4%が自身や家族の生計を立てるために起業。
- 趣味や特技を生かすため: 27.6%が自分の趣味や特技を生かすために起業。
これらの目的は、フリーランス起業家たちが自分のキャリアや生活において価値を見出し、自己実現を目指していることを示しています。彼らは、従来の雇用形態にとらわれず、自分の能力や情熱を最大限に活用してビジネスを展開しています。
フリーランス起業家の事業形態
- フリーランス形態の継続: 約60%のフリーランス起業家が、その働き方を継続しています。
- 雇用を伴う事業形態への移行: 約20%の起業家が、フリーランスから従業員を持つ事業形態へと移行しています。
このデータは、フリーランスとしての働き方が柔軟であり、起業家がビジネスを拡大していく過程で多様な事業形態を採用していることを示しています。
起業の国際比較
GEM調査を用いた国際比較によると、日本の起業活動は他国と比較して一貫して低い水準で推移しています。この調査は、起業活動の水準を各国間で比較するための重要な指標となっています。
起業活動者の定義
GEM調査では、「誕生期」と「乳幼児期」を合わせた合計を、各国の「起業活動者」と定義しています。これにより、各国の起業活動の活発さを測ることができます。
起業活動の国際比較
- 総合起業活動指数: 各国の起業活動者の成人人口に占める割合を示す総合起業活動指数では、日本は他国に比べて低い水準にあります。
将来の起業計画
- 起業計画率: 「今後3年以内に新しいビジネスを計画している」成人人口の割合を示す起業計画率は、日本では上昇傾向にあるものの、国際的には引き続き低い水準です。
起業意識の国際比較
- 起業意識: 起業に関する意識は未だ日本で低い傾向にあり、「周囲に起業家がいる」「起業に有利な機会がある」「必要な知識、能力、経験がある」という項目に対する肯定的な回答の割合が他国に比べて低いです。
周囲に起業家がいる | 周囲に起業に有利な機会がある | 起業するために必要な知識、能力、経験がある | 起業することが望ましい | 起業に成功すれば社会的地位が得られる | |
日本 | 19.4 | 8.1 | 10.1 | 22.8 | 51.5 |
米国 | 38.5 | 69.8 | 55.6 | 62.7 | 78.7 |
英国 | 33.3 | 44.0 | 46.6 | 56.1 | 76.4 |
ドイツ | 23.7 | 42.1 | 38.3 | 49.6 | 74.8 |
フランス | 33.2 | 34.9 | 37.5 | 58.2 | 71.5 |
イタリア | 26.0 | 34.6 | 29.8 | 63.9 | 74.6 |
中国 | 48.8 | 35.1 | 24.1 | 60.8 | 68.7 |
分析と考察
このデータから、日本における起業に対する意識や環境が他国と比較して劣っている可能性が示唆されます。特に、起業活動が低い水準であることや、起業に対する前向きなイメージが低いことが、起業家や潜在的な起業家の減少に関連していると考えられます。このため、日本における新規企業の開業を促進するためには、競争やイノベーションを促進し、雇用創出や経済成長につながるような取り組みが必要とされています。
ベンチャー企業の動向と投資の増加
日本の起業活動が全体的に低水準に留まる中、ベンチャー企業への注目が高まっています。政府の「成長戦略実行計画」によっても、ベンチャー企業はイノベーションの担い手として、国の経済成長において重要な役割を果たすと期待されています。
ベンチャーキャピタルによる投資の増加
- 投資金額と件数の増加: 国内のベンチャーキャピタル(VC)による国内ベンチャー企業への投資は、2014年度から増加傾向にあります。特に2017年度から2018年度にかけて、投資金額は25.3%増加し、投資件数も10.3%増加しました。
- 1件当たりの投資金額: 2015年度以降、1件当たりの投資金額も増加しており、2017年度から2018年度には13.5%の増加が見られました。
ベンチャー企業への注目度の高さ
このデータから、国内ベンチャー企業への投資が増加していることが明らかであり、ベンチャー企業への注目度が高まっていることが伺えます。投資の増加は、新しいアイディアや革新的な技術を持つベンチャー企業が、経済成長の中核を担う可能性を示しています。
ベンチャー企業への多様な資金供給源
日本のベンチャー企業への投資状況に関して、ベンチャーキャピタル(VC)以外にも多様な資金供給源が存在していることが明らかになっています。具体的には、事業法人、金融機関、個人投資家、海外投資家などが、ベンチャー企業への資金を提供しています。
投資家タイプ別の投資状況
- 事業法人による投資: 2018年時点で、ベンチャー企業への投資額全体のうち43.8%を占め、最も大きな割合を示しています。
- VCによる投資: VCからの投資も全体の36.0%を占めており、引き続き重要な資金供給源です。
- 個人投資家の増加傾向: 全体に占める割合は小さいものの、個人投資家からの投資も増加しており、新たな資金源としての可能性を示しています。
資金調達の課題と投資の重要性
2017年版中小企業白書によれば、創業期における最大の課題は「資金調達」であるとされています。この課題に対して、ベンチャー企業への投資の拡大は重要な役割を果たすことが期待されています。資金調達の容易化は、ベンチャー企業の創業と成長を促進し、経済全体にとっても有益です。