BCP実践促進助成金とは
助成金の目的と概要
皆さん、突然の災害や予期せぬ事態に、あなたの会社は対応できますか?ビジネスを継続するための計画、いわゆるBCP(Business Continuity Plan)の重要性が叫ばれる中、東京都が画期的な支援を始めました。それが「BCP実践促進助成金」です。
この助成金は、中小企業の皆さんがBCPを実践するために必要な基本的な物品や設備の導入にかかる費用の一部を助成するものです。つまり、「計画を立てただけで終わらせない」というメッセージが込められているんです。
具体的には、以下のような目的で設計されています:
- BCPの実践を促進する
- 災害時の基幹システムの防災力を強化する
- 中小企業の事業継続能力を向上させる
例えば、自家発電装置や安否確認システムの導入、感染症対策の物品購入など、実際にBCPを実行に移すための具体的な対策にこの助成金を活用できるんです。
対象となる中小企業者
「うちの会社も対象になるのかな?」そんな疑問をお持ちの方も多いでしょう。安心してください。この助成金は幅広い中小企業者を対象としています。
対象となるのは以下のような事業者です:
- 中小企業基本法で定義される中小企業者
- 小規模企業者(従業員20人以下、商業・サービス業は5人以下)
ただし、注意点もあります。以下の組織は対象外となっています:
- 特定非営利活動法人(NPO法人)
- 財団法人、社団法人
- 学校法人、宗教法人
- 社会福祉法人、医療法人
- 政治・経済団体
「うちは小さな町工場だけど…」という方も大丈夫です。むしろ、小規模企業者には有利な条件が用意されているんですよ。例えば、助成率が中小企業者の1/2に対して、小規模企業者は2/3以内と高くなっています。
つまり、会社の規模に関わらず、事業継続に真剣に取り組む姿勢があれば、この助成金を活用するチャンスがあるということです。
助成金の種類と特徴
単独型
BCP実践促進助成金には、大きく分けて2つのタイプがあります。まずは「単独型」についてご説明しましょう。
単独型とは、その名の通り、1つの事業者が単独で利用するタイプの助成金です。自社のBCPを強化したい、でも他社との連携は難しいという場合に適しています。
単独型の主な特徴は以下の通りです:
- 申請要件:
- 公社が実施するBCP策定支援事業による支援を受けていること
- または、中小企業庁の「事業継続力強化計画」の認定を受けていること ※いずれの場合もBCPの作成が必要です
- 助成率:
- 中小企業者:1/2
- 小規模企業者:2/3以内
- 助成限度額:
- 1,500万円(申請下限額10万円) ※この金額には基幹システムのクラウド化の助成上限額450万円も含まれます
「え?1,500万円も?」と驚かれた方もいるでしょう。そうなんです。かなり大きな金額の支援が受けられるんです。例えば、高額な自家発電装置の導入や、大規模なデータバックアップシステムの構築などにも対応できる金額設定になっています。
ただし、注意点として、すべての経費が対象になるわけではありません。助成対象となる経費は明確に定められていますので、申請の際は十分に確認が必要です。
連携型
次に、「連携型」についてご説明します。これは、複数の事業者が協力してBCPを強化する場合に利用できるタイプです。
連携型の主な特徴は以下の通りです:
- 申請要件:
- 中小企業庁の「連携事業継続力強化計画」の認定を受けていること ※BCPの作成が必要です
- 助成率:
- 中小企業者:1/2以内 (小規模企業者の優遇はありません)
- 助成限度額:
- 1,500万円(申請下限額10万円) ※この金額には基幹システムのクラウド化の助成上限額450万円も含まれます
連携型の大きな特徴は、複数の事業者で設備や物品を共用できる点です。例えば、同じ工業団地内の企業同士で大型の自家発電装置を共同購入したり、地域の商店街でまとめて安否確認システムを導入したりすることが可能になります。
これにより、単独では難しかった大規模な対策も実現できるようになりますし、コストの分散によって各社の負担も軽減できるというメリットがあります。
ただし、連携型の場合は「連携事業継続力強化計画」の認定が必要なので、申請の準備には少し時間がかかるかもしれません。でも、その分、より強固なBCPを構築できる可能性が高まります。
助成金の申請要件と対象経費
主な申請要件
BCP実践促進助成金を申請するには、いくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、その主な要件について詳しく見ていきましょう。
- BCP(事業継続計画)の作成 これは最も重要な要件です。単に「作成した」だけでなく、実践可能な具体的な内容である必要があります。
- 申請タイプに応じた認定や支援の取得
- 単独型の場合: a) 公社が実施するBCP策定支援事業による支援を受けている または b) 中小企業庁の「事業継続力強化計画」の認定を受けている
- 連携型の場合: 中小企業庁の「連携事業継続力強化計画」の認定を受けている
- 東京都内で実質的に事業を行っていること 本社所在地が都外であっても、都内に主たる事業所がある場合は対象となります。
- 助成対象期間内に事業を完了できること 各回の申請期間に応じて設定された助成対象期間内に、発注・契約・実施(購入)・支払(決済)のすべてを完了する必要があります。
- 過去に本助成金を受給していないこと 同一の事業者が複数回申請することはできません。
これらの要件を満たしていれば、申請の資格があります。ただし、要件を満たしているからといって、必ず採択されるわけではありません。審査では、BCPの内容や導入予定の設備・物品の妥当性なども評価されます。
「うちの会社、要件を満たしているかな?」と不安な方は、公社の相談窓口を利用するのがおすすめです。専門家のアドバイスを受けられるので、申請の準備がスムーズに進むはずです。
助成対象経費の具体例
では、具体的にどんな経費が助成の対象になるのでしょうか?ここでは、主な対象経費をカテゴリー別に見ていきます。
- 電源の確保
- 自家発電装置
- 蓄電池 これらは停電時の事業継続に不可欠です。規模や用途に応じて選択しましょう。
- 従業員の安全確保
- 安否確認システム
- 従業員用の備蓄品(食料、水、毛布など) 災害時、最も大切なのは人命です。従業員の安全を確保するための設備や物品が対象となります。
- 感染症対策
- マスク、消毒液などの衛生用品
- 体温計、パーティションなど 新型コロナウイルスの流行を受けて、感染症対策も重要なBCPの一部となっています。
- 水害対策
- 土のう
- 止水板 近年増加している水害に備えるための設備も対象です。
- 地震対策
- 転倒防止装置
- 耐震診断費用 地震大国日本では、これらの対策は必須と言えるでしょう。
- データ保護
- バックアップ用サーバー(NAS)
- クラウドサービスによるデータバックアップ費用
- 基幹システムのクラウド化(上限450万円) 災害時のデータ喪失を防ぐための対策です。特に基幹システムのクラウド化は大きな助成額が設定されています。
これらは一例です。他にも、BCPの実践に必要と認められる経費であれば対象となる可能性があります。ただし、以下のような経費は対象外となりますので注意が必要です:
- 消費税
- 振込手数料
- 代引手数料
- 人件費
- 既存設備の撤去費用
- 消耗品(パソコンなど、事業終了後も企業の資産として残らないもの)
「この経費は対象になるのかな?」と迷った場合は、公社に問い合わせるのが確実です。事前に確認しておくことで、申請時のトラブルを避けられます。
助成金の申請から交付までの流れ
申請スケジュール
BCP実践促進助成金の申請は、年間で3回のチャンスがあります。それぞれの回で、申請期間や助成対象期間が異なりますので、自社の状況に合わせて最適なタイミングを選びましょう。
令和6年度の申請スケジュールは以下の通りです:
- 第1回
- 申請エントリー・電子申請受付期間: 令和6年5月13日(月)9:00 ~ 5月17日(金)17:00
- 交付決定:令和6年7月下旬
- 助成対象期間:令和6年8月1日 ~ 11月30日
- 第2回
- 申請エントリー・電子申請受付期間: 令和6年9月9日(月)9:00 ~ 9月13日(金)17:00
- 交付決定:令和6年11月下旬
- 助成対象期間:令和6年12月1日 ~ 令和7年3月31日
- 第3回
- 申請エントリー・電子申請受付期間: 令和7年1月8日(水)9:00 ~ 1月15日(水)17:00
- 交付決定:令和7年3月下旬
- 助成対象期間:令和7年4月1日 ~ 7月31日
注意点として、助成金の予算には限りがあるため、予算の執行状況によっては申請受付が早期に終了する可能性があります。「申請しようと思ったら締め切られていた」ということにならないよう、できるだけ早めの準備と申請をおすすめします。
また、各回の助成対象期間内に、発注・契約・実施(購入)・支払(決済)のすべてを完了する必要があります。例えば、第1回で申請して交付決定を受けた場合、令和6年11月30日までにすべての手続きを終える必要があります。期間内に完了できるかどうか、よく検討してから申請しましょう。
申請から交付までのステップ
では、具体的にどのような流れで助成金が交付されるのでしょうか?ここでは、申請から交付までのステップを詳しく見ていきます。
- 申請エントリー・電子申請 指定された期間内に、オンラインで申請エントリーと電子申請を行います。必要書類をすべて揃えて提出しましょう。
- 審査 提出された申請書類をもとに、公社が審査を行います。BCPの内容や導入予定の設備・物品の妥当性などが評価されます。
- 交付決定 審査を通過すると、助成金の交付が決定されます。この時点で助成金の上限額などが示されますが、これは支払いを保証するものではありません。
- 事業実施・実績報告 交付決定を受けたら、計画に基づいて事業を実施します。設備や物品の購入、システムの導入などを行い、その後実績報告書を提出します。
- 検査・金額確定 公社が実績報告書をもとに検査を行い、適正に事業が行われたかを確認します。その結果、助成金の確定金額が決まります。なお、検査の結果によっては金額が減額されることもあります。
- 請求 確定した金額の請求書を公社に提出します。
- 助成金の支払 請求書の内容を確認後、指定の口座に助成金が振り込まれます。
この一連の流れの中で、特に注意が必要なのは「事業実施」の段階です。交付決定を受けたからといって、すぐに助成金が支払われるわけではありません。一度自社で費用を支払い、後から助成金が支払われる「精算払い」方式となっています。
そのため、資金繰りには十分な注意が必要です。大型の設備を導入する場合などは、一時的に大きな支出が必要になることもあるでしょう。自社の資金状況をよく確認し、必要に応じて金融機関との相談も検討しましょう。
また、実績報告書の作成も重要です。購入した設備や物品の証明写真、発注書や請求書のコピーなど、細かな証拠書類が必要になります。日頃からこれらの書類をきちんと管理しておくことが大切です。
BCP実践促進助成金を活用するメリット
企業の防災力強化
BCP実践促進助成金を活用することで、企業の防災力を大幅に強化できます。これは単に「災害に強くなる」というだけでなく、ビジネスにとって重要な意味を持ちます。
- 事業中断リスクの低減 自家発電装置や水害対策設備の導入により、災害時でも事業を継続できる可能性が高まります。これは顧客との信頼関係維持にもつながります。
- 従業員の安全確保 安否確認システムや備蓄品の整備は、従業員の安全を守るだけでなく、彼らの安心感にもつながります。結果として、災害時の迅速な事業再開にも寄与します。
- データ保護の強化 バックアップシステムやクラウド化により、重要なデータを守ることができます。情報漏洩や喪失のリスクが低減され、企業の信頼性向上にもつながります。
- 感染症対策の充実 With コロナの時代、感染症対策は企業の社会的責任の一つです。適切な対策を講じることで、従業員や顧客の健康を守り、事業継続の確実性を高めることができます。
例えば、ある製造業の中小企業では、この助成金を活用して自家発電装置を導入しました。その結果、台風による大規模停電の際も生産ラインを止めることなく操業を続けられ、納期遅れを回避できたそうです。これは、まさに「防災力の強化」が実際のビジネスメリットにつながった好例と言えるでしょう。
コスト削減と競争力向上
BCP実践促進助成金の活用は、直接的な防災力強化だけでなく、間接的にコスト削減や競争力向上にもつながります。
- 設備投資コストの削減 助成率が最大2/3(小規模企業者の場合)というのは、非常に大きな支援です。例えば、300万円の設備を導入する場合、自己負担は100万円で済むことになります。これにより、より高性能な設備の導入や、複数の対策の同時実施が可能になります。
- 保険料の削減可能性 BCPの実践により、企業のリスク評価が向上し、損害保険料が下がる可能性があります。実際に、一部の保険会社では、BCPの策定・実践を条件に保険料を割り引くプランを提供しています。
- 取引先からの信頼度向上 近年、大手企業を中心に取引先のBCP対策状況を重視する傾向が強まっています。この助成金を活用してBCPを実践することで、取引先からの信頼度が向上し、新規取引の獲得や既存取引の維持・拡大につながる可能性があります。
- 業務効率化とコスト削減 例えば、基幹システムのクラウド化は、単なる防災対策ではありません。日常的な業務効率化やコスト削減にもつながります。サーバーのメンテナンスコストが不要になったり、リモートワークの実現が容易になったりするのです。
- 従業員のモチベーション向上 会社が従業員の安全に真剣に取り組んでいることは、従業員の帰属意識やモチベーション向上につながります。これは生産性の向上や人材流出の防止にも寄与します。
ある小売業の企業では、この助成金を活用して基幹システムのクラウド化を実施しました。その結果、災害時のデータ保護だけでなく、日常的な業務効率が大幅に向上。さらに、クラウド化をきっかけに業務プロセスの見直しを行い、年間のランニングコストを20%削減できたそうです。
このように、BCP実践促進助成金の活用は、単なる「お金の節約」ではなく、企業の総合的な競争力向上につながる可能性を秘めているのです。
申請時の注意点とアドバイス
申請書類の準備
BCP実践促進助成金の申請を成功させるためには、綿密な準備が不可欠です。ここでは、申請書類の準備に関する重要なポイントをご紹介します。
- 必要書類の確認 申請に必要な書類は以下の通りです:
- 助成金交付申請書
- 事業計画書
- 経費明細書
- 会社概要書
- 直近の決算書(2期分)
- BCP策定支援事業の支援を受けたことの証明書または事業継続力強化計画認定書
- その他公社が必要と認める書類
- 事業計画書の作成 事業計画書は審査の核となる重要な書類です。以下の点に注意して作成しましょう:
- 具体的な数値目標を設定する
- 導入予定の設備・物品とBCPの関連性を明確に説明する
- 自社の事業継続におけるリスクを具体的に分析する
- 導入後の活用計画を詳細に記述する
- 経費明細書の作成 導入予定の設備・物品について、以下の点を明確にしましょう:
- 具体的な品名・型番
- 数量
- 単価
- 購入予定先 見積書も忘れずに添付しましょう。
- スケジュールの逆算 申請期間の締切日から逆算して、十分な準備期間を確保しましょう。特に初めて申請する場合は、予想以上に時間がかかることがあります。
- 専門家のアドバイス活用 公社では、申請に関する相談窓口を設けています。積極的に活用し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
よくある間違いと対策
最後に、BCP実践促進助成金の申請でよくある間違いとその対策について見ていきましょう。これらの点に注意することで、申請の成功率を高めることができます。
- 助成対象外の経費を含めてしまう 対策:申請前に、公社のガイドラインを再確認し、不明な点は必ず問い合わせしましょう。
- BCPと導入予定の設備・物品の関連性が不明確 対策:事業計画書で、各設備・物品がどのようにBCPの実践に寄与するか、具体的に説明しましょう。
- 助成対象期間外の取引を含めてしまう 対策:交付決定日以降に発注・契約・実施・支払をすることを徹底しましょう。
- 申請書類の記入漏れや誤記 対策:提出前に複数人でチェックを行い、記入漏れや誤記がないか確認しましょう。
- 実績報告書の提出遅延 対策:助成対象期間終了後、速やかに実績報告書を提出できるよう、日頃から関連書類を整理しておきましょう。
- 導入した設備・物品の目的外使用 対策:助成金で導入した設備・物品は、申請時の目的以外に使用してはいけません。用途を明確に定め、社内で周知徹底しましょう。
- 変更手続きの遅れ 対策:事業内容や経費に変更が生じた場合は、速やかに公社に相談し、必要な手続きを行いましょう。
「百戦錬磨の経営者でも、初めての助成金申請は難しいもの」と言われます。しかし、これらの注意点を押さえ、丁寧に準備を進めれば、必ず成功にたどり着けるはずです。
BCP実践促進助成金は、中小企業の皆さんにとって、事業の継続性を高め、競争力を強化する絶好の機会です。この機会を最大限に活用し、より強靭な企業体質を築いていきましょう。災害に強い企業は、平時の経営でも強みを発揮できるはずです。